もう梅雨も後半に入ってきましたが、梅雨の時期に庭を彩るアジサイは日本人にとってとても馴染みが深い植物です。というのも、アジサイは日本が原産で、万葉集に「安治佐為」「味狭藍」として載っていたほど古くから知られていました。おそらくその理由の一つとして、アジサイは開花してから花の色が変わる、また同じ品種でも場所により花の色が異なるなどの特徴があり興味を持たれていたからでないでしょうか。ただし、当時は色が変わるということで「移り気」「節操がない」など、あまりイメージはよくなかったようです。

 さてこのアジサイの花の色の主体は、アカダイコンやアカキャベツと同じアントシアニンです。アントシアニンはシアニジンとデルフィニジンの2つに大別され、色調としてはシアニジンが赤みが強い赤紫色、アジサイのアントシアニン尾主体であるデルフィニジンは青みがが強い赤紫色といった傾向があります。

興味深いのは、アジサイの花色が変わる原因は土壌の酸性度(pH)で、酸性だと青色、アルカリ性だと赤色になる、日本は酸性土壌が多いので青色が多い、ということはよく知られています。しかしながら、アントシアニンは通常はpHが低ければ(酸性)赤色、pHが高ければ(アルカリ性)青~緑色であり、アジサイの花色と逆転しています。これはなぜでしょうか。

 最近分かってきたのは、アジサイの花色はアントシアニンの他に補助色素(助色素)と、金属の一つであるアルミニウムが関わっているということです。元々アントシアニンは金属イオンの影響を受けて色調や安定性が変わることが知られています。実はこの性質をうまく使っているのがナスの漬物で、漬物を作る際に加える鉄くぎやミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム)は、これらに含まれる鉄やアルミニウムイオンがアントシアニンと結合して複合体を作り安定化するということになります。

 話を戻しますが、アルミニウムは土壌に多く含まれる無機物です。ただし植物がこれを利用するためには、根から吸収される状態である必要があります。アルミニウムは中性やアルカリ性では無機塩の形で土壌にとどまりますが、酸性になるとイオンになり土壌に溶け出し、植物が吸収できる形になります。そこでアジサイは酸性土壌ではアルミニウムを吸収し、アントシアニンと結合して花色が青色になります。一方、中性やアルカリ性だとアルミニウムが結合していないアントシアニンそのものの赤色になる、というわけです。

 なお品種により酸性土壌でも花が青色にならなかったり、土壌に関係なく青色やピンク色の花をつけるものもありますが、これは補助色素が原因で、補助色素を持たなかったり、補助色素の働きを抑制する物質を産生するアジサイはアルミニウムが存在しても青色になりにくいと言われています。 

 なおアジサイは開花後に花の色が白~薄黄緑色から赤、紫、青色に変わります。これは開花直後は色素がまだ産生されておらず、花色は白かわずかにある葉緑素の緑のみしかみられませんが、開花が進むにつれてアントシアニンが産生されて色づいてくると言われています。

このように、アジサイは開花後の経時的な変化とアルミニウムなど土壌環境の違いなどが重なって、様々な色の変化をもたらしていると言えます。そのような視点でアジサイを眺めてみると、何かいつもと違った発見があるかもしれません。