(株)鹿光生物科学研究所は食品の分析及び開発受託を請け負う分析機関です。天然着色料の取り扱いには自信があります。

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バタフライピー色素(チョウマメ色素)

名称 バタフライピー色素・チョウマメ色素/ Butterfly pea color
概要 【本品は業界団体などによる規格は設けられていません】
アントシアニン類の一種である「テルチナン」を主成分とする青色の色素
INS No. なし E No. なし
色調 赤紫~青~青緑色 染着性
溶解性(水) 溶解性(油) ×
耐熱性 耐光性
金属の影響 データなし タンパクの影響 データなし
分類 一般飲食物添加物
既存添加物自主規格・食品添加物公定書への収載なし(2021年11月1日時点)
特徴 酸性で赤紫、弱酸性で青、中性~アルカリ性で青緑色
ニチノーカラー  
食品への表示例 着色料(バタフライピー)、着色料(バタフライピーエキス)、着色料(バタフライピー抽出物)、着色料(チョウマメ)、着色料(チョウマメエキス)、着色料(チョウマメ抽出物)、バタフライピー色素、チョウマメ色素  ※メーカー仕様書より
使用基準 本品は以下の食品には使用できません。1.こんぶ類、食肉、豆類、野菜類、わかめ類(これらの加工食品は除く)。2.鮮魚介類(鯨肉は除く)、茶、のり類 ※メーカー仕様書より

更新履歴
2021/11/1 新規作成


来歴

チョウマメ(蝶豆)はマメ科の多年草で、天然の青い色素、またpHで色が青色から赤色や緑色に変わる色素として、日本でも最近注目を集めるようになってきました。

花の形が蝶のように見えることから日本では蝶豆、海外ではそのままの訳でButterfly peaバタフライピーと名付けられています。寒さに弱いため日本では冬を越すことができず、主に観賞用の一年草として扱われています。

 原産地である東南アジアでは昔から広く栽培され、色素がある花(花弁)から容易に特徴的な青色の色素が得られること、また色素の安定性が高いことなどから、花の部分の乾燥品から青い水色をしたハーブティーを作り、レモンを絞ることで色合いの変化を楽しんだり、飲料やお菓子などの食品、または化粧水などの着色に日常的に使われてきました。また日本のお茶のように、健康維持や体調の改善効果があるとされて、民間療法的に用いられてきた歴史もあるようです。


色素の構造

バタフライピー色素の主成分はアントシアニンであるテルナチン(Ternatin)です。下の図にあるように、テルナチンはアントシアニンの基本骨格(アントシアニジン)の一つのデルフィニジンという化合物の2カ所(O-糖(グルコース)-Rとなっている箇所)に4~7個のグルコースと2~4個の有機酸であるp-クマル酸が様々な組み合わせて結合しているポリアシル化アントシアニンの総称で、チョウマメには9種類の主要なテルナチンが含まれていることが知られています。


なぜテルナチンは他のアントシアニン色素と違って青色なのでしょうか?

 アントシアニン色素というと通常はアカキャベツや赤シソのように赤色のイメージがありますが、チョウマメから得られるのはアントシアニン色素にも関わらず青色という珍しい色素です。ではなぜバタフライピー色素のアントシアニンは青色なのでしょうか。

 アントシアニンの項でも触れていますが、下図のようにアントシアニンの基本骨格(アントシアニジン)には幾つかあり、それぞれ色あいが異なります。バタフライピー色素のアントシアニジンであるテルナチンの基本骨格はデルフィニジンですが、実はデルフィニジンはアントシアニジンの中で最も青色に近い色合いをしています。食用の色素ではありませんが、アジサイの青色やツユクサの青色も実はデルフィニジンの青色なのです。 

 

とはいえ、デルフィニジン自体は青色というよりは青紫に近い色のため、より青色っぽく見えるようになるためには幾つかの条件が必要になります。

 そもそもアントシアニジン自体は不安定な化合物で、それに糖や有機酸が結合(アシル化)してアントシアニンになるために安定化しているとされています。そして有機酸が1つ結合したものをモノアシル化アントシアニン、2つ以上結合したものをポリアシル化アントシアニンと呼び、ポリアシル化アントシアニンの方が安定性が高いとされています。赤色のアントシアニンの場合、ブドウ果皮色素のアントシアニンはモノアシル化アントシアニン、ムラサキイモ色素のアントシアニンはポリアシル化アントシアニンで、後者の方が安定性が高いことはよく知られています。

 バタフライピー色素の場合は有機酸が2つ以上結合しているポリアシル化アントシアニンで、液中でも安定な構造をとるとされています。そのためにデルフィニジンの青色をより鮮やかに、かつ安定して発色することができる、ということになります。


色素の特徴

pHによる色調の変化

 既によく知られていますが、バタフライピー色素の一番の特徴は、「pHで色が変わる」青色色素であるということです。
 実際に水や乳飲料に溶かした場合、pHによる色の違いは下の写真のようになりますが、特に透明な液に溶かした場合は鮮やかな青色を示します。pHによってはスピルリナ色素の青色の色合いに似ることもありますが、pHを酸性にしたりアルカリ性にすることで赤紫色から青緑色に変色します。乳飲料など不透明な素材に使った際も同様の色合いになりますが、透明な液ほどは鮮やかにならないようです。そのことから、焼き菓子やチョコレート菓子よりも透明系の飲料やゼリー、氷菓などのほうがバタフライピー色素の色合いに向いているのではないでしょうか。


耐熱・耐光性

バタフライピー色素の耐熱性は、OD=1の濃度に調製した液体を80℃で2時間加熱したところ、色素の残存率は83.7%と、耐熱性が高いクチナシ青色素の94.6%には及ばないものの高い安定性を示しました。ちなみに他のアントシアニン色素について同様に調べた場合の値は以下のようになりました。
     バタフライピー色素  83.7%
     クチナシ青色素       94.6%
     アカキャベツ色素      88.1%
     ムラサキイモ色素   87.3%
     アカダイコン色素   84.0%
     シソ色素       77.1%
     ブドウ果汁色素       80.8%

一方耐光性について、同様にOD=1の濃度に調製した液体を30,000ルクスの光で2日間照射したところ、色素の残存率は27.3%となり、アントシアニン色素の中ではあまりよくない値になりました。
     バタフライピー色素  27.3%
     クチナシ青色素       56.8%
     アカキャベツ色素     101.6%
     ムラサキイモ色素       91.7%
     アカダイコン色素   84.7%
     シソ色素       78.8%
     ブドウ果汁色素        40.8%


補足

 バタフライピー色素は2019年10月に一般飲食物添加物として扱われるようになった新しい添加物です。通常、食品添加物の新規指定に際しては安全性や規格に関する様々なデータを行政機関(厚生労働省)に提出し、厚生労働省は食品安全委員会の意見を受けるなどして問題がないことを確認してから新規指定となります。このようにして新規に指定された場合は、その旨の省令や告示が出されて誰でも情報を見ることができます。

 一方、バタフライピー色素が適用された一般飲食物添加物は基本的に原料が食品であるという前提に基づいて、事業者が行政機関に食品添加物的な使い方を行うという内容を届出して受理さえしてもらえればよいとされており、規格や詳しい情報は事業者が公開しない限り知ることができません。通常、一般飲食物添加物の多くは業界団体である(一財)日本食品添加物協会が中心となって自主規格を作り、「既存添加物自主規格」を刊行してどの事業者でもわかるように公開されています。しかしながらバタフライピー色素にはまだこのような規格が定められていないため、一概にバタフライピー色素と言っても各メーカーで規格、例えばチョウマメの品種や加工方法、また色合いや純度などが異なっている可能性があります。


 本項の作成に際しては弊社で入手した幾つかのメーカーの資料やサンプルを参考にしていますが、各所で入手できるバタフライピー色素の全てを反映したものではない可能性がありますので予めご了承ください。


参考資料

 ・寺原典彦ら、浦上財団研究報告書、8、p17-27(2000)
 ・農研機構プレスリリース「(研究成果)「青いキク」が誕生(2017/8/4)
 ・農研機構プレスリリース「デルフィニジンによる青色花色」
 ・日農化学工業株式会社 社内資料


株式会社鹿光生物科学研究所ではバタフライピー色素を用いた食品の着色について、これまでに培った様々な知見をもとに、お客様のご要望に沿った色彩の食品開発を支援しております。色調や安定性など、食品の色に関することはなんでもお問い合わせ下さい。

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