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天然色素ーカロテノイド(カロチノイド)

 植物の花・葉・実が醸し出す豊かな色は古来から人々の眼を惹きつけ、自らの衣食住の中に取り込んできました。中でも食に関しては梅干への赤シソの赤色や栗きんとんへのクチナシの黄色といったように、植物が持つ色素は私たちの食生活に数多く利用されてきています。また、ここ数年のインターネットの飛躍的な発展に伴い誰でもSNSやWebで情報発信ができるようになり、「インスタ映え」にみられるように、食品について味だけでなく見た目の重要性も高りつつあります。

 その中で、植物由来の天然色素で最も身近な色素としてカロテノイド(カロチノイド)があげられます。カロテノイドは植物や微生物のみが作ることができる色素で、ニンジン、トマト、トウガラシ、柑橘系などに含まれる色素成分です。常に私たちの身近にあって「カロチノイド」「βカロチン」などキーワードはなんとなく聞いたことがあるものの、その実態についてはあまり知られていないのではないでしょうか。

 そこで、ここではそのカロテノイドについて紹介します。 


目次

1.カロテノイドの所在
2.カロテノイドの構造
3.カロテノイドの色
4.カロテノイドの生理活性
5.各カロテノイド色素
  アナト―色素
  カロテン類
  クチナシ黄色素
  サフラン色素
  トウガラシ色素
  トマト色素
  ヘマトコッカス藻色素
  マリーゴールド色素
6.まとめ


1.カロテノイドの所在

 カロテノイドを作ることができるのは植物と一部の微生物(藻類)のみで、それらは体内で合成して蓄積しています。その理由として、植物は光合成をおこなうために光を必要としますが、自分で動くことができない植物は、環境によっては逆に紫外線などの有害な光のある環境下でも生きのびる必要があります。そこで植物は自らの身を守るためにカロテノイドやフラボノイド(アントシアニン)などの強力な抗酸化物質を作っていると言われています。具体的な作用として、植物が光合成に必要な光を吸収する際に、カロテノイドはクロロフィルが吸収できない波長の光のエネルギーを吸収してクロロフィルに受け渡すことで光合成を補助しながら、一方で有害な波長の光をカットし、植物の酸化やダメージを抑える抗酸化物資として働いています。

 カロテノイドはニンジンやトマト、トウガラシの赤色、柑橘類やクチナシ、マリーゴールドの黄色などが知られていますが、実は緑色の葉野菜にもカロテノイドが多く含まれているのをご存じでしょうか。下の表にあるように、見かけによらずシソ葉、パセリ、春菊、小松菜などに非常に多く含まれています。また卵黄やバターの黄色もカロテノイドですが、なぜ動物由来の食品に含まれるのかというと、動物が摂取する飼料や作物から移行するためです。同様に魚介類でも鮭や鱒などの身は赤いですが、これは藻類が作る赤色のアスタキサンチンというフラボノイドを餌として摂取しているためです。よくミカンを食べ過ぎると肌が黄色くなると言われていますが、これもミカンに含まれるカロテノイド(βカロテン)によるものなのです。

主な食品のカロテノイド量(βカロテン)

シソ葉

11,000μg/100g

ミカン

1,100μg/100g

ニンジン

8,600μg/100g すいか 830μg/100g

パセリ

7,400μg/100g    

赤ピーマン

1,100μg/100g    

かぼちゃ

830μg/100g 卵黄 55μg/100g

トマト

540μg/100g

プロセス
チーズ

230μg/100g

(出典:食品成分データベース(文部科学省))


2.カロテノイドの構造

 カロチノイドはテルペン類化合物の中でもテトラテルペン類に属する物質です。テルペン類は植物にとって重要な化合物で、2万以上の化合物が知られています。2つの不飽和結合(二重結合)を持つイソプレンという分子(C5H8)2つを基本骨格(一単位)として、重合度合いによって(モノ)テルペン(1単位、C5)、ジテルペン(2単位、C10)、トリテルペン(3単位、C30)、テトラテルペン(4単位、C40)と呼ばれています。植物にとって重要な化合物で、2万以上の化合物が知られています。
※モノ、ジ、トリ、テトラ:ギリシャ語でそれぞれ1,2、3、4のこと。

 テルペン類は柑橘類に含まれる爽やかな香り成分であるリモネンや清涼効果があるメントールなどのモノテルペンから、多くの薬用植物の生理活性物質であるサポニン類やステロイド類を含むトリテルペンなど、イソプレン骨格を主体にして、それに様々な種類、大きさの側鎖がついた化合物があり、その数は多岐に渡ります。
 その中でイソプレン骨格が4単位繋がった構造を持つものがテトラテルペンで、代表的なテトラテルペン化合物がカロテノイドということになります。
 カロテノイドは下図にあるβカロテンの構造式からも分かるように、炭化水素Cが一重結合-と二重結合=が長く連なった構造を持つのが特徴です。

 また、下図に示したように結合している側鎖の種類で「炭化水素系」「キサントフィル系」「その他」と分類されることもあります。
 炭化水素系はその名の通り炭素Cを中心にしているのに対してキサントフィル系は水酸基-OH、カルボニル基-COなどの形で酸素を含むことが特徴のカロテノイドです。一般的に炭化水素系は水やアルコールには溶けにくく、エーテルやヘキサンなどの炭化水素系の無極性溶媒に溶けやすい、キサントフィル系カロテノイドはその逆で極性溶媒に溶けやすく、無極性溶媒に溶けにくいという特徴があります。 

 なおこの表にありませんが、クチナシ黄色素の色素成分であるクロシンは同じカロテノイドですが、テトラテルペンが通常、炭素原子Cが40個あるのに対してクロシンはそれよりも少ないため、アポカロテノイドと呼ばれています。
(クロシンには炭素原子が44個含まれていますが、そのうちの24個は側鎖についているゲンチオビオースという糖に由来するもの。ゲンチオビオースが外れたクロセチンの炭素原子は20個になる。)この糖が結合している形は配糖体と呼ばれますが、カロテノイドの中では珍しく水に溶けやすい特徴を持っています。このことから、食用色素として昔から幅広く使われています(クチナシ黄色素)。


3.カロテノイドの色

 カロテノイドの色としては黄色、橙色、赤色などが良く知られています。
黄色いカロテノイドでよく知られているのはカボチャやトウモロコシ、サツマイモで、これらはαカロテンやルテインによる色になります。ニンジンやかんきつ類、トマトやパプリカなどの橙色~橙赤色はβカロテンや(β-)クリプトキサンチン、リコピンなどによる色になります。一方甲殻類や鮭、鱒などの赤色はアスタキサンチンによるものです。
 また前述したようにカロテノイドを多く含む緑色の野菜がありますが、これは葉に含まれる葉緑素の色により
カロテノイドの赤色や黄色が見えなくなってしまっているためです。

カロテノイドの色と代表的な成分、由来植物

黄色

α-カロテン
ルテイン(マリーゴールド色素

ニンジン、カボチャ、ピーマン、トウモロコシ、柑橘類など
橙色

β-カロテン(カロテン類色素
γ-カロテン
クリプトキサンチン
ゼアキサンチン

ニンジン、サツマイモ、柑橘類、ホウレンソウなど

橙赤色

リコピン(トマト色素)
カプサンチン(トウガラシ色素

トマト、パプリカなど
赤色

ビキシン(アナトー色素
アスタキサンチン(ヘマトコッカス藻色素

甲殻類、鮭、鱒など

4.カロテノイドの生理活性

 植物が作ったカロテノイドは光合成に必要な光の吸収の手助けを行っているほか、紫外線から身を守る働きも持っています。

 光合成とカロテノイドは意外な組み合わせと思われるかもしれません。通常、光合成は緑色の葉の中でのみ行われているというイメージがありますが、その際には400~700nmの波長の光が使われます。緑色の葉の場合、葉緑体が青色と赤色の光を吸収して残りの光を反射するため、見た目には緑色に見えるということになります。
 それに対してカロテノイドは、葉緑体が吸収できない緑色の波長を含めて400nmから550nmにおける紫~青~緑色の光を吸収する作用があります。そこでは赤色や黄色は吸収されずに反射してしまうため、私たちの目にはその色が見える、ということになります。

 また近年は、植物が持つ色素の紫外線防御作用に注目が集まるようになってきました。紫外線は過度に浴びると細胞のDNAを損傷して細胞死をもたらすことが知られています。それはなぜか、光は波長が短いほうからガンマ線、X線、紫外線、可視光線とありますが、波長が短いほうが強いエネルギーを持つ性質があります。よくご承知の取り酸素は生物が生きていく上で欠かせない物質ですが、通常は安定な状態(酸素O2(三重項酸素と呼ぶ場合もあります)で存在しています。ところが紫外線のエネルギーはこの酸素を活性化させて不安定な状態(活性酸素(ROS))にする働きがあり、それが脂質を酸化させたり(脂質過酸化)、タンパク質を変性させたり(タンパク変性)、DNAの合成を妨げたり損傷したりすることで細胞にダメージを与えるというわけです。もちろん植物にとっても有害で、紫外線が葉緑体に直接ダメージを与えて光合成を阻害することもあります。 

 それに対して植物がもつ色素、アントシアニンの項でも解説していますが、アントシアニンを含むフラボノイド類は紫外線を吸収する働きがあり、DNAなど重要な部位を守っているとされています。カロテノイドも活性化した一重項酸素を三重項酸素に戻す働きがあるとされており、その働きにより紫外線から身を守ることができるのです。

 このようなカロテノイドの生理作用を私たちも利用できないかということから近年は盛んに研究が進められています。例えばビタミンA(レチナール)はヒトにとって筋肉などたんぱく質の合成に欠かせない、不足すると夜盲症や発育不良になることが知られている重要なビタミンですが、通常はレバーやチーズ、バターなど動物由来の食品に多く含まれています。しかしながら植物にも実はこの構造を持っているカロチノイドがあります。それはαカロチンやβカロチンで、ビタミンAが2つ付いた構造を取っているため、プロビタミンAと呼ばれることもあります。実際これらの物質は摂取すると体内で代謝されてビタミンAとなり、生理作用を発揮することが知られています。 

 また癌は細胞が細胞自体や遺伝子に対して活性酸素やフリーラジカルなどの様々なストレスが原因で引き起こされる疾患の一つであることが知られていますが、βカロテンはそのような癌化をもたらす因子を除去し、肺がんや前立腺がんの発生を抑えることが示唆されています。また柑橘類に含まれるβ-クリプトキサンチンは生活習慣病のリスクを下げる効果が報告され、骨の健康維持に有効とされるヘルスクレームで生鮮食品として初めて機能性表示食品として認められた三ヶ日みかんの機能性成分として知られています。その他、ルテインは哺乳類の眼に多く含まれ、そこで発生する活性酸素を抑制して加齢黄斑変性の予防に有効であるという報告がされたり、アスタキサンチンに血中脂質の酸化防止作用や肌の健康を保ち炎症を抑える働きが報告されるなど、カロテノイドは単に色素としてだけでなく健康維持を目的とした機能性用途への需要が高まってきています。


5.カロテノイド色素


6.まとめ

 このように、カロテノイドは比較的身近なところにあり、色素としても非常に多く使われているにも関わらず、具体的にどういうものかということについては意外によく知られていないのではないでしょうか。

 その一方で、近年はβカロテンを始め、ルテイン、アスタキサンチン、クロセチン、βクリプトキサンチンなどの個々のカロテノイドの名前が取り上げられるようになり、機能性素材として脚光を浴びることが多くなってきました。これらは昔から食べられてきた野菜や果物などに含まれているということで比較的安心感が高いのではないでしょうか。但し、カロテノイドは高い機能性を持った素材であることは確かですが、水に溶けずに油に溶けやすい特徴があります。それは裏を返すと身体に蓄積しやすいということであり、ビタミンAの過剰摂取には注意が必要とされているように、摂りすぎには注意が必要です。

株式会社鹿光生物科学研究所はグループ会社の日農化学工業(株)が得意としているカロテノイド色素の製造販売に長年、品質管理や開発面で携わっており、長年の知識と経験を持っております。ご不明な点やお困りの点などがありましたらお気軽にお問い合わせ下さい。


【参考資料】
 片山脩、田島眞共著、光琳選書2食品と色、光琳
 黒柳正典、人の暮らしを変えた植物の化学戦略、築地書館
 アンドリュー・ペンゲリー、ハーバリストのための薬用ハーブの化学、フレグランスジャーナル社
 藤井正美、新版・食用天然色素、光琳
 株式会社鹿光生物科学研究所、日農化学工業株式会社 社内資料
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